1人暮らし高齢者問題を考える
医療法人社団緑星会 どうたれ内科診療所(千葉県松戸市) 堂垂伸治
(以下の文章は「臨床作業療法」07年4月号に掲載した文です)
*文中の1)から18)は引用文献を示します
Ⅰ.1人暮らし高齢者の増加
平成17年の国勢調査では、全国の1人暮らしの高齢者(65歳以上)は高齢者全体の15.1%、405万人である。
厚生労働省は今回の介護保険改定の際に、今後の予測を以下のごとく列挙している。1)
① 2015年から高齢者人口が一層増加し、25年には高齢者人口がピーク(約3500万人)を迎える
② 認知症高齢者が「250万人」へ
③2015年には高齢者の1人暮らし世帯が「570万世帯」へ
④「高齢者多死時代」へ
⑤今後急速に高齢化するのは都市部
2015年には、高齢世帯は約1700万世帯に増加し、そのうち1人暮らし世帯が約570万世帯(約33%)に達し25年には680万人に達すると推計されている。25年には75歳以上の4割が1人暮らしになる。2) 昨今の未婚率・離婚率の増加、少子化・核家族化の進行で、実際はこの予測よりさらに増えるだろう。
これはいわゆる団塊世代3年間の総数よりも多いという膨大な数である。3)介護保険が創設されるとき、「これからは誰もが人生最後の3ヶ月は寝たきりになる」と語られた。しかし、今後は「誰もが人生最後の5-7年は1人暮らしになる」時代が到来するのである。
Ⅱ.孤独死が増えている
こうした1人暮らしの増加と共に、「孤老族」4)という言葉が登場し「孤独死」の報道も多く社会問題化している。5)~7) 私が居る松戸市は47万都市だが、H15年に90人、H16は95人、H17年は102人の「孤独死」が報告されている。近隣の常盤平団地は1960年から入居が始まったニュータウンだが、団地自治会・社会福祉協議会が孤死に焦点をあて「孤独死ゼロ作戦」を展開している。(表1)
行政を動かし「まつど孤独死予防センター」を設置した。そして、①高齢者・単独世帯が緊急時連絡先を記入する「あんしん登録カード」を作成する、②向こう3軒両隣の精神で民生委員などが安否確認の定期訪問をする、等を行っている。
(表1)「孤独死ゼロ作戦4つの課題-常盤平団地」「7つの対策」 8)
①65歳以上ひとり暮らし「登録」呼びかけ
②ひとり暮らしへの対応(訪問、助け合い活動、見守り活動、安否確認、各種サービス制度の紹介、介護保険の活用等)
③「通常時」及び「緊急時」の通報ネットワークの活用
④「向こう三軒両隣り」の呼びかけ(地域コミュニティーの推進)
⑤福祉よろず相談業務の充実
⑥関係団体との連携
⑦行政との協働と役割分担
Ⅲ.当院通院患者さんでの1人暮らしの方の転帰
当院が慢性疾患で管理している患者さんのうち独居(単独世帯生活者)の方の転帰を、04年6月から06年9月まで2年3ヵ月追跡調査した9)。独居の方は101人(男性19人、女性82人)だった。調査開始時の平均年齢は76.0歳であった。独居の原因は、約3割が配偶者と死別された方であった。2年3ヵ月後の転帰は以下のごとくであった。介護保険を利用している要介護者は3割おり、近所に血縁のいる方は3割に過ぎなかった。
(表2)当院独居の方、2年3ヵ月後の転帰
管理中 | 施設へ | 家族と同居 | 死亡 | 他院へ | 未通院 | 不明 |
77人 | 6人 | 5人 | 5人 | 4人 | 1人 | 3人 |
当初訪問診療していた患者さんは7人で、うち1人が死亡、1人が施設に入所され、5人が在宅生活を続けておられた。独居の方で、その後訪問診療に移行した方は居なかった。
Ⅳ.独居の方の抽出に工夫を
独居の方のピックアップは、医療機関では通常その観点は持たないので、意外と難しい。当院では初診時問診票を工夫し、家族関係なども聞き取れるものとして、以下の質問項目を追加した。 『追加の質問です(該当しない方は回答不要です)。
お一人暮らしの方の場合や高齢者夫婦だけでお住まいの方は、下記に○を付けてください。
1 1人で暮らしている 2 ともに65歳以上の夫婦だけで暮らしている』
そしてこれにより抽出された方々を別個に表にし、管理している。
Ⅴ.孤独死は避けられない
亡くなられた5人の中に突然死が3人あった。うち2人は路上で倒れられ、1人が自宅で死亡しており「孤独死」であった。残りの2人は疾病で入院後死亡された。この3人を振り返ると、当方としては「止むを得ない結果で防ぎようが無かった」というのが実感である。最善の医療や注意を払い努力しても「突然死」や「孤独死」を完全に防ぐことは不可能ではないかと感じた。したがって、「孤独死を防ぐ」という概念を大切にして、「独居になっても安心して住めるような地域社会をどう築くか」を中心課題と考えるべきと感じた。
Ⅵ.電話による安否確認・24時間相談窓口を
当院ではこの2年間、これらの方々で特に心配な方78人に(外来受診の中間にあたる日に)月1回程度の電話による安否確認を行った。この電話連絡は、4割の方に歓迎された。もちろん煩わしさや不要と感じる方もおられた。この定期的な電話連絡は電話する側にも相当の負担があった。
その結果、独居の方に「何かありましたら当院に電話連絡してください」と特に示しておくことが、医療機関にとって無理のない態勢と感じ実行した。医療機関(診療所)は当該患者さんと日常的な面識・信頼関係があり、特に体調面に関しては患者さんが相談し易い。そしてこの程度であれば、事務や看護師で十分対応が可能であり、日常業務に追われる医療に支障が無いと感じた。
「独居になっても安心して在宅生活を続ける」には、その不安感を解消するため、さらに24時間体制の電話相談窓口が必要と考える。10)これは各医療圏域に1箇所程度設置することで有効なのではないか。本来は既存の「在宅介護支援センター」や、「地域包括支援センター」の役割かもしれない。
Ⅶ.ケアマネジャーの力量が問われる
1人暮らしの要介護者の中には、多数の疾患がありながらも力強く在宅で生活されている例もある。こうした場合は、本人の意思もさることながら、やはり担当ケアマネジャーの資質が寄与しており、訪問介護・訪問診療・訪問看護・訪問リハビリなどがたくみに活用されている。逆に言えば、ケアマネジャーが安易な資質だと在宅は継続せず、何かあるとすぐに施設入所に回される。要介護者でも安心して暮らすには、ケアマネジャーがきめこまかで丁寧なサービス内容を提示し、患者さんを支える事ができるかどうかがポイントである。
Ⅷ.1人暮らしの見守りは重層的なネットワークで
06年8月厚生労働省は「孤立死ゼロ・プロジェクト」を07年度に実施するとしている。全国のモデル自治体で、①急病などに対応するための緊急通報装置や、電気・ガスの使用を確認して異変を察知するシステムなどハード面の整備、②介護サービスとの連携による安否確認などの予定している。11)
ハード面では、他に新聞配達・郵便配達・ごみ運搬業者の協力やTV電話・ITの活用・電気ポット・水道消費等での監視体制も考えられており、12)~14)しかしこれらはいずれも費用や労力の面で課題が残っている。今後はより安価で手軽という点で、携帯電話等の活用による見守り体制に可能性を感じる。また今回設けられた「小規模多機能施設」やグループリビングの動きもある。15)~16)
しかし、そうした進展にも関わらずソフト面が重要である。「信頼関係を有した医療機関や介護サービス機関」が、関わっている1人暮らしの方に重層的にネットワークを作り身近な相談窓口となることが必要と考える。
Ⅸ.一人暮らしの方を地域に紹介しよう
現在、当地では「常盤平高齢者支援連絡会」という地域ケア体制を築き、私自身その1員として活動している。これは、専門職と地域住民が協働で高齢者問題を地域なりに解決して行こうというものである。17)
この中で、独居高齢者の対処困難例が多く、見守りの方法を様々に検討している。その結果、1人住まいや高齢者世帯の方に緊急連絡先や主治医・介護保険事業所などの一覧を記載した「あんしん連絡網」を作成するに至った。また近接の常盤平団地自治会でも同様の「あんしん登録カード」を作っている。全国各地の社協や民生委員でも意識あるところでは、こうした試みが為されている。
今後さらに1人暮らしの方にその趣味や関心に合わせた地域の団体・NPO・インフオーマルサービスの紹介を通じ、「独居者を地域に紹介する」ことを考えている。
Ⅹ.1人暮らしでも安心して生活できる地域社会を
現在、「認知症になっても安心して生活できるまちづくり」が謳われている。今後は、同様に「1人暮らしになっても安心して生活できる」よう、地域に“安心”をどう提供するかが問われる時代と考える。地域で活動する医療・保健・福祉の専門職はこうした問題意識を持ち、地域に密着し安心を提供する体制作りの一助となることを目指すべきである。
(引用文献)
1) 厚生労働省老健局 山崎史郎「介護保険制度の見直しと在宅ケアの推進」
4)朝日新聞 06.7.3 幸せ大国を目指して⑭-未来を選ぶ 孤老族
5)朝日新聞 06.2.15 孤独死相次ぐ
6)東奥日報 05.2.13
7)神戸新聞 04.1.14
9)堂垂伸治 独居生活者の転帰(当院2年3ヶ月の追跡調査より)
10)神戸新聞 02.3.20「独居高齢者に声の宅配便」
11)読売新聞 06.8.22
12)見守りeye
13)ツナガル~アンシン「テレビ電話」
14)小川晃子 「ITを活用した在宅高齢者の安否確認ネットワークシステムの効果」報告書
15)にわかに人気!グループリビング16)グループリビング川崎 17)松戸市地域福祉計画